【学術会議】ハンスト終了 「誰かが死んで抗議しなければならない事件だった」


ハンスト期間中よく雨が降った。冷たい風雨に打たれて体力は消耗した。7日目。=10月8日、官邸前 撮影:田中龍作=

 26日14時28分、スガ首相の所信表明演説を聞き届けると、菅野完はハンストの終了を宣言した。

 「スガはショボイ、勝手にやってろオマエら」。菅野は吐き捨てるように言った。

 569時間余りに及ぶ絶食抗議だった。ハンストに突入したのは10月2日。汗ばむこともあった頃だった。今では冷たい風が体温を奪う。夏の名残があった初秋から晩秋に季節が変わったのである。

 体重は8㎏減った。顔は凹んで小さくなった。肌はヒカラビていてドス黒い。

 ハンスト初期の頃、菅野は「当然死ぬつもりですよ」と話していた。それは最後まで変わらなかった。

親族が見ても誰か分からないほど、やつれた菅野がいた。24日目。=10月25日、官邸前 撮影:田中龍作=

 菅野は19日夜から経口補水液を絶った。「経口補水液を飲んでいるとなかなか倒れないから」と説明した。

 夜露を浴びながらの就寝は、あえて体力を削ぐためだった。ハンスト終盤、夜だけホテルに帰ったのは、菅野を支援する仲間が疲労困憊していたからだ。

 「死ねると思っていた」
 「死にたいと思っていた」

 「経口補水液を絶ったけど倒れないんだよ」
 「死なせてくれないんだよ」。

 悔しそうに言葉を搾り出す菅野の表情が忘れられない。

 「首相が平気で法律を破る。誰かが死んで抗議しなければならない。それだけの事件なんだ」。

  学術会議への人事介入に、菅野は腹の底から怒っていた。

菅首相が官邸を出る直前の光景。ハンスト場所は権力の動向を間近でチェックできる場所だった。25日目。=10月26日、官邸前 撮影:田中龍作=

 「死ぬのがスガへの最高のあてつけ」と語っていた菅野は、反知性を骨の髄から憎んだ。

 官邸前のハンスト現場に本棚を持ち込み、読書を欠かさなかったことにも、それは現れている。

 官邸前の本棚はツイキャスにも映った。知性で反知性と戦う菅野の姿勢に共鳴した人々が、官邸前に集まり本を読むようになった。

 菅野はハンスト中「これまでになかった、新しい戦い方をしたいんだ」と話していた。

 旧来の集会デモのように動員で来るのではなく、誰かに声を掛けられて来るのでもない。

 自分の意思と知性で、反知性の巣窟である権力中枢の前に来て、間違った政策に異を唱える。

 「右向け右」「左向け左」。集団行動は日本社会の特性だ。官邸前の読書運動はそれに風穴を開けたのではないだろうか。

 「本懐だ」。菅野は落ちくぼんだ目を輝かせた。

    ~終わり~

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